23回トピックは、最近のフランス料理事情です。

 1月の末から2月にかけて、パリ、リヨン、ディジョン、リールと周って来ました。今回はビストロ、ブラッスリー、パン屋さんを中心に見て、食べてきました。二年ぶりのフランスですが、さすが食べる為に生きると言う食文化の国。レストラン業をやっていると羨ましい限りの光景がそこにはありました。
 20年前に食べに行った店に入って、その当時に食べたものを注文してみましたが、多少、年はとってはいますが、20年前と同じ人がサーヴィスをしてくれ、出てきた料理もこれ又、まったく同じ盛り付け、同じ味だったのには、感激しました。多分、その当時と同じ料理人が作ってくれたものと信じています。来られるお客様も、馴染みの人ばかりで、長年、通い続けているのだろうと思います。

 レストラン業をやっていて、良く来られるお客様に、来られる度に違うメニューを提供するのも、一つのスタイルかもしれませんが、料理人としては、この店に来るのは、これが食べたいから来るんだと言う人、来る度に同じものを注文する人の方が、私としては、とても嬉しく思います。事実、そう言う方が何人かいて、長い人では、一週間に一度お見えになって、子羊のローストとサラダだけを10年間、食べ続けた人がいました。
 私もこの方の料理だけは、若い人にまかせず、自分で作るように努めました。さすがにお互いに年もとってきて、珠には他の物を召し上がったらどうかと勧めたところ、パスタが食べたいと仰ったので、海の幸のスパゲッティ、トマト味を作りました。やはり週に一度、必ず来てパスタとサラダを5年間食べ続けてくれました。元々、心臓の持病がある方だったのですが、訃報を聞いた時には、全身の力が抜けてしまった事を、つい先日の事の様に、覚えております。私にとっては、ある意味で料理の味、精神のだったような気がします。

 さて、毎年2月末に、レストラン業界が一喜一憂するホテル・レストランガイドのミシュラン2,007年版が発刊されました。これについて、私なりに意見を述べてみます。三ツ星レストランは、26店で新規昇格は5店。二つ星は、65店で新規は7店。一つ星は436店、新規50店。以上527店が星付きの評価を受けました。

  女性シェフの三ツ星昇格など明るい話題もありますが、降格した有名店、返上した店を見てみますと、一概に味の評価だけで降格したのじゃないようにも思われます。私の知り合い、後輩など、実際にフランスで星付きのレストランで働いている人の意見をここ一年間聞いた感じでは、現在、星を維持していくのには、莫大な費用がかかります。今のフランスの労働時間、労働力を考えるとかなりの人件費がかかります。数年前の私達のような研修生やタダ働きの人を使いにくい状況を考えると、維持していくのが大変じゃないかと思います。

  風格を保つためには、料理に限らず、内装、調度品、サーヴィスまでも求められる事を考えれば、すべてが最高より調度品、サーヴィスはまあまあでも美味しい料理を提供する店を目指した方が、商売としてのメリットがあり、長く続けられるような気がします。確かに、星を獲得する事によって、お客様の数も増え、活気と同時にシェフ、店の名誉も手にする事も出来ます。料理人、レストランのオーナーのほとんどの人が、これを目指して、努力していますが、相当の資金力がなければ獲得、維持が出来ないような気がします。

  しかし、フランスには、星が付いていなくても美味しい店が沢山あります。自分の身分、予算、好み、体調に応じて店を選ぶ事が出来るのが嬉しい限りです。今回の旅は、こう言う店の食べ歩きでした。

  *先ず、最初に訪れた、久しぶりのフランス第2の都市、リヨン。

 この地方は、野菜、豚肉、川魚の他、ブレスの鶏、シャロレの牛、ドンブの魚、蛙、鶉等、近隣地域の食材に恵まれており、これらの食材で作る伝統的な料理キュイジーヌ・リヨネと署名な料理人に依る洗練された料理の両方で名高い美食の都でもあります。

ソーヌ川から見た旧市街と丘の上のノートルダム ドゥ フルヴィエール

ソーヌ川沿いの朝市で見た野菜達。そのままかじりたい位新鮮でした。

  Cuisine Lyonnaiseと言えば、内臓料理、川かますのクネル、リヨン風サラダ、リヨン風ポテト、、、グランド・キュイジーヌでも有名な料理が沢山あります。

  久しぶりに川かますのクネルを食べましたが、味は???。鶏のレバーの入ったサラダ、アンドュイエットは、とても新鮮で美味しかったです。

  *次に行ったディジョンでは、これも定番通り、デザートにはカシス、料理にはマスタードと、ディジョンの特産品を使用したà la Dijonnaiseを食べました。

  先ず、Jambon Persilléジャンボン・ペルシェ、この料理は、塩漬け豚腿肉を茹でて、フォークでほぐし、刻みパセリと合わせ、ゼリー寄せにしたディジョンの名物料理。

  次に食べたのはSteakSauce Dijonnaise 牛肉のステーキ、ソース・ディジョネーズ 牛ロース肉の網焼きにディジョンの特産物であるマスタードをベースにしたソースで食べました。マスタードの辛味が良く効いていて引き締まって味でした。

  デザートはもちろんPoire Belle Dijonnaise 洋梨、ベル・ディジョネーズ 洋梨のコンポートにカシスのアイスクリームを詰め、カシスのピュレをかけ、グリエしたアーモンド・スライスを散らしたシンプルな一品でした。

  どの皿も地方色豊かで、大地の恵みを感じる料理で、ワインも飲みすぎてしまいました。

  *次に訪れたリール、どうしても行きたかった理由は、ビールの産地であるという事です。

  この地はベルギーの国境近くでフランドルとピカルディの間の丘陵と台地で、小麦、ビートの生産が多く、製糖、アルコール製造が盛んな地方です。海産物の漁獲高も多く、塩漬け、油漬け、燻製といった主に、鰊の加工業が発達しています。

  ここでは、鰊のオイル漬け、フランドル地方の名物料理Hochepotオシュポ、ビールのスープを食べてみました。

  ビールのスープの作り方、バターと小麦粉でルーを作り、ブラウン色のビール、ブイヨンを加え、塩、胡椒をし、30分間煮ます。パン ドゥ カンパーニュにカッソナードを振り、カラメル状に焼き、スープ皿に入れます。上から熱いスープを注ぎ、好みでジンを垂らして香りを着け、召し上がって下さい。不思議な味です。

  オシュポという料理は、牛の尾、牛肉、野菜のポ・ト・フの事で、フランドル地方では古くからある名物料理です。

  最後にパリに戻って来ました。

  パリでは、評判のレストラン、ビストロを数軒、食べ歩いてみました。最初にお話した20年前に行ったブルゴーニュ料理の店、魚料理が美味しいと評判の新しいレストラン、ビストロ、、、と、昼、夜食べ歩きの連続で、まだまだ身体は若いなと自分で納得していた次第です。

パリ、ムフタールの朝市、相変わらずの活気でした。

  今回の旅行で、特に気付いたのですが、魚料理専門店が増えたようにフランス、特にパリの魚事情が変わってきたように思われます。以前は魚屋さんの前を通ると魚臭くて、我々、日本人には堪えられない店が多かったのですが、少しはやわらいだように思うと同時にレストランに於ける魚の扱い方がうまくなったように思われます。調理場に入ると魚のポジションには日本人が任されている店が多いせいもあるとは思いますが、、、。

  しかし、どの店もその時間になると、それなりにそれなりの人で一杯になり、活気溢れている光景を目の当たりにすると羨ましい限りでした。

  もう一つ、今回改めて考えさせられた事、それは日本人のイメージするフランス料理は、堅苦しい、華やかと言われるように食べ物から見た目だけでなく、内装、什器備品、サーヴィスも最高を求める高級料理フランス料理であり、“フランスの料理”ではありません。それに対しイタリア料理は高級料理でなく、地方料理として入って来ていますから“イタリアの料理”として日本人に受入れられ易いと思います。日本に於けるフレンチとイタリアンは次元の異なる物で、両者を比較する事はできません。

  “フランスの料理”には気軽に適切な金額で食べられるメニューが多くあります。自分の条件にあった料理、料理店を探してください。

  日本でも、今秋、ミシュランが発行されるそうですが、どんな採点の仕方をして評価するのかを、楽しみにしております。


  次回のトピックは、“フランスの料理”について気軽にフランス人が良く食べる定番を紹介します。